「蜂」と言えば私たちにとっては有害な「害虫」としての認識が一般ですが、自然界においては蜂も生態系を形成する一つの生物。庭先で見かける無害とも言うべき蝶やバッタ、カマキリなどと変わりはないのです。視点を変え蜂を一つの生き物として捉えた時、意外と知られていない生物界における蜂の世界が見えてきます。
まだ知らないこんな「蜂」
私たちが蜂と聞いて連想するのは「スズメバチ」や「アシナガバチ」、「ミツバチ」などが一般的でしょう。しかし世の中は広く、世界にはいろんな蜂がおり、ちょっと変わった生態の蜂や、蜂のそっくりさんというものも存在します。ここでいくつかご紹介しましょう。
宿主に寄生する蜂
蜂=蜂の巣で卵から孵(かえ)るとばかり思いがちですが、蜂の中にはスズメバチやミツバチのように巣を中心に集団社会を構成するものもいれば、群れを成さず植物や動物に寄生して産卵、単独行動を基本にする蜂もいるのです。コバチ、ヒメバチ、コマユバチなどがそうで、これらは「寄生蜂」と呼ばれています。動物に寄生する蜂の場合、宿主となるのはクモやイモ虫、トンボといった虫が多いです。
ゴキブリを操る蜂
玉虫色の鮮やかな体を持つエメラルドゴキブリバチという蜂は、寄生宿であるゴキブリを操ることで有名。単に襲ってその場で相手の身体に卵を植え付けるのではなく、まずはゴキブリを毒で制し逃避反射を麻痺させた後、触覚を引っ張りながらゴキブリを巣穴まで誘導、それから卵を産み付けるという手法を取る珍しい蜂です。寄生宿自ら歩かせる方法ならば、たとえ自分の身体より大きくても容易に巣へ運ぶことが出来ます。このゴキブリを操る一連の行動は「ゴキブリのゾンビ化」と言われています。
蜂にそっくりな蛾
例えばカメレオンやナナフシのように周りの景色に擬態する生き物がいますが、スズメバチに擬態することで有名な蛾がスカシバガです。写真の通り、触覚や羽、身体の黄色と黒の模様など、スズメバチと見間違うほどそっくり。他の虫たちも敬遠する凶暴なスズメバチに身体を似せることで敵に襲われないようにしています。主に熱帯地域に生息しており、2016年には沖縄でもスズメバチにそっくりなスカシバガの新種が発見されています。
蜂にそっくりなアブ
擬態する蛾がいるならば、パッと見で蜂と形が良く似たアブの中に擬態するアブがいても不思議ではないでしょう。ハナアブ科のアブがやはりスズメバチにそっくりなカラーリングの体を持っており、体長が小さいものほど擬態の完成度は高いようです。因みにアブに「刺される」と良く言われますが、実際はアブに蜂のような毒針はなく刺している訳ではありません。「鋭い口で皮膚を切り裂かれて血を吸われる」というのが正しい表現になります。
蜂と天敵
一部の生物には擬態されるほどに生態系では強者の位置にいる蜂ですが、その蜂にも天敵というのは存在します。中には「まさか?!」と思うような虫が天敵だったりもします。ここで蜂の天敵にはどんなものがいるか、ミツバチとスズメバチを例に挙げてみてみましょう。
スズメバチの天敵
オニヤンマはトンボの一種。そのトンボがあの獰猛なスズメバチの天敵とは意外ですが、オニヤンマもスズメバチを捕食することもあるようです。但し、スズメバチには毒針がありますので、時には逆にやられてしまうこともあり、必ずしも上位的な天敵とは言えないかもしれません。また、捕食はされることはありませんが、カブトムシやクワガタなどは堅い鎧をまとっているため、スズメバチの強靭な顎をもってしても歯が立たないある意味異色の天敵。そのため、樹液を取り合わないよう敢えて時間をずらしているという説もあります。毒を持った身近な生物として有名な、ムカデもスズメバチの天敵になります。ムカデの毒は蜂毒と違ってお湯どの熱によって分解されますが、高熱にならないスズメバチには関係ありません。
ミツバチの天敵
ミツバチのような体が小さく攻撃性の低い蜂にとっては、スズメバチの天敵はミツバチにとっても同様なのは勿論、同じ蜂であるそのスズメバチに襲われることも珍しくありません。また、ミツバチの幼虫などに寄生して体液を吸う小さなダニが、意外にもミツバチを巣ごとせん滅させるほどの脅威となることがあります。
蜂は確かに私たちにとって危険の大きい虫の一つです。しかし実態を知ると、無闇に刺さない大人しい蜂もいれば、ただ蜂に似ているだけという虫もいます。見つけたのが虫を「蜂だ!危険だ!」と一括りにしてしまうと、絶滅危惧の種まで駆除してしまいかねません。蜂も一つの生き物であるという認識の上で、私たちの生活に危険が及ばない最小限の駆除を行うようにしましょう。その際、蜂の種類や生態などに精通している蜂駆除業者にお願いするのも良い方法と言えます。